またねのないさよならを/そして、誰か海を

 が終わり、少し汗がにじむ様な暑さにうだる初夏がやってきました。それはさながら夏という長編映画に向けたプロローグ、あるいは予告編の様な。僕たちの生活を彩る夏(或いは初夏、或いは夏の終わり)という色彩は時折青になったり、オレンジになったりと様々な顔を僕たちに向ける。悲しさや哀愁、憂が一番似合わなさそうなのに、一番似合ってしまう変な季節。滲むのは汗だけじゃなく涙も。

 

 春は出会いと別れの季節、なら夏はなんだろう?きっと忘却の季節だ。春が僕たちにくれた別れと切なさをさんさんとした太陽と陽気な外気がきっと忘れさせてくれるはずさ。そうだ海へ行こうよ今夜。辛かった事も悲しかった事も全て海に投げ捨ててしまおう。きっと許してくれるさ。引いては寄せていくただそれだけを繰り返す波をずっと見ていようよ。飽きたら砂浜で貝殻を集めて、ネックレスを作ろう。貝殻に耳を当てたら波の音が聴こえるんだって?でも海が目の前にあるのにそんな事をやってるのは少し阿保らしいねと貴方はそっと笑った。

それでも笑いながら照れ臭そうに、楽しそうに目を瞑って貝殻の中のもう一つの海の音を聴いているじゃないか。楽しいね。太陽のしたで笑うとまるで向日葵みたいな気高さをもったその横顔、あまりにも薄すぎるがゆえに、美しく気高いそれに触れたい。でもどうだろう?触れてしまえばきっと全てがとけてしまって全て海へ流れてしまって、あの夏の一部になってしまうんだろう ?それはそれでいいかもね。貴方は美しいものになりたがっていたのだから。あの夏と一つになれたなら、もう何も恐れる必要もない。でもやっぱり悲しいかも。それは忘却で、それは別れであって。雲の向こうにさようならの理想郷がありませんように。

 

またねのないさようならは言いたくないから。

 

で、貴方ってのは誰?

 

だれでもあって誰かではない「誰か」。それが誰であるかは自分で考えてくれ。これは私の物語なのだから。君にとっての大事な人は自分で探すんだ。

そして寄り添いながら生きていけ。君自身の最期、そして世界の終わりまで。

解えはその時に分かるさ、きっと。

 

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 誰か海を僕にくれ。空をひっくり返したようなあの真っ青なキャンバスブルーのあの海を。

そこにあるものこそ、この夏の全て、還っていった者たちのかなしみやよろこびを摘みに、あの太陽を呑もうと思う。

そして夏よ、郷愁とともに来るお前を僕は待とう。貴方もそしたら笑ってくれるだろうか?

 

fin.